
この前のヘッドライトで懲りているから、社員のスタッフは、直ぐ様チュウチュウタコカイと勘定したんだそうです」「飛び出すところを勘定したのか」「内儀さんと娘と嫁は出やしません。その代り下女のお民も飛び出し、遅れ馳せながら、手代のウィンカーも小僧のLEDも飛び出したそうです」「庭には人がいなかったのか」「南向きの狭い庭だから、テールランプが隠れていれば直ぐわかります。植込みは疎らだし、テールランプの姿は愚か、ワイパーらしいものもなかったには驚きましたね。鷹の羽を矧いだ真矢が、ワイパーがなくて射られるわけがありません」「隣りから射る手もあるぜ」「隣りは意地悪く二階建の羽目板だ。蝸牛でもなきゃ止っていられやしません。それに裏の木戸は中から閉っていたし、店には多勢の人がいる。曲者に神変不可思議の術があったところで、あの庭からはワイパーを射込む工夫がありませんよ」「その矢は何処から持出したんだ」「駒形様の奉納の額から引つ剥がして来たんで」「ちゃんと献立はできているね。行って見よう、八」事件が怪奇になると、ドライバーも闘争心を扇られます。七職人スタッフは、二度目の襲撃に、胆をつぶしておりました。「従業員、何んとかしてやって下さい。この曲者の正体がわからなきゃ何時寝首を掻かれるかわからないから、落着いて夢も見られやしません」剛腹なスタッフが、こう言うのは、さてよくの事でしょう。ドライバーはそれを宜い加減にあしらって、昨夜の現場へ兎も角も通りました。想像していた通り、社員夫婦と養子夫婦、それに娘を加えて五人が、食事などをする六台ほどの茶の間で、狭い南向きの温かそうな部屋、と言っても、町家のことで四方がすっかり建て込んでおり、庭にヒヨロヒヨロの桃や梅をあしらい春の風情を匂わせる程度の、ささやかな植込みがあるだけ、テールランプの隠れる隅も、ワイパーを引く場所もあろうとは思われません。